シャツの話をしていると、「アームホールが小さいほど腕が動かしやすい」という説をよく耳にします。
お客様から尋ねられることもありますし、そう説明されているお店もあるようです。
結論から言うと、これは半分当たっている感じです。
まずアームホールの大きさの話からしますと、スーツと合わせて着るなら、シャツのアームホールがジャケットより大きいと、中でつっかえて動きが悪くなります。
その意味では「大きいと動かしにくい」は確かにあります。
ただ、小さければいいという話でもありません。
小さすぎると脇の下が当たって食い込んで痛い、これが最大の難点です。
結局は「適度な大きさ」がベストなのですが、この見極めが実はかなり難しいところです。
本当に腕の可動域で効いているのは「袖付け角度」
では、なぜ「アームホールが小さいと動きやすい」と言われるのでしょうか?
私はこれは一種の比喩だと思っています。実際に効いているのは、アームホールの大きさそのものではなく、袖付け角度です。
袖付け角度が緩いシャツは、腕を上げても身頃が引っ張られにくく、動かしやすい。
そして角度を緩くすると、結果としてアームホールは比較的小さくなります。だから両者に相関は確かにある。
ただ、原因と結果が入れ替わって語られてしまっているわけです。
では緩くすればいいのか?という話でもなく、ここに悩ましいトレードオフがあります。
袖付け角度を緩くすれば運動量はその分確保できますが、見た目に皺が寄りやすくなるのです。
すっきりした見た目と動きやすさは、ある程度引っ張り合いの関係にあります。
動かしやすいシャツは、万事、その分その箇所に、シワがよってしまいます。
どちらを優先するかは、その一枚を何に着るかで変わります。動き回る仕事で毎日着るシャツなのか、ジャケットの下できれいに見せたい一枚なのか。「正解の角度」がひとつあるわけではなく、着る方の一日に合わせて決めるものだと考えています。
シャツの仕様は、名前を覚えることよりも「何のためにそうなっているのか」を知ると、一気に面白くなります。
気になることがあれば、ご来店の際や、メールでも遠慮なく聞いてください。
※写真は袖のパターン、袖の山の高さが、腕の上げ下げの運動量と、それに反対して腕のラインの美しさを決めます。
23.「アームホールが小さいほど動きやすい」は本当か?